アスタルテ書房にてペガーナロストの取り扱いがはじまりました。

京都の古書店アスタルテ書房さんにて、ダンセイニ研究誌「ペガーナロスト」と、ダンセイニ長編『夢源物語 ロリーとブランの旅』の取り扱いが始まりました! 東京以外でははじめての店売りとなります。台風で風が吹きすさぶ中で重い本を腰痛に苦しみながら持ち込みました。関西在住のみなさま、よろしくお願いします。
アスタルテ書房さんには、京阪三条で下りて、徒歩10分ぐらいです。地図なしで行けばかならず見つけられないお店なので、きちんと調べてから行ってください。一階が運送屋さんの集配所になっているビルの二階に入っています。階段手前にある郵便受けに「アスタルテ書房」と書いてあるのが唯一の目印です。検索して、地図をプリントするなり、電話番号をメモするなりしてから出発してください。
思い起こせば、15年前に、1921年発行の『ダンセニイ戯曲全集』(松村みね子訳)と、再版「IF」(洋書)をここで購入したことで、ペガーナロストを創刊するはずみになりました。ペガーナロスト創刊号に載せた書影がそうです。今回、販売物を持って訪れたときに『ダンセニイ戯曲全集』について話を振ってみたところ、私が購入してからは、一冊しか取り扱いがなかったとのこと。同じ松村みね子の訳本「シング戯曲集」と比べるとすっかり稀覯本となってしまいました。
ペガーナロストの通販は、マルドロールさんにて取り扱っていただいております。
http://www.aisasystem.co.jp/~maldoror/
東京での店頭販売は、西荻盛林堂書房さんにて取り扱っていただいております。
http://d.hatena.ne.jp/seirindou_syobou/
よろしくお願いしまーす。

ダンセイニ劇本邦上演記録(最新版)

日本でもたくさんのダンセイニ劇が上演されてきました。その記録については一度ペガーナロスト12号で報告させてもらいましたが、また少し記録が集まったので、最新版ということで、ここで報告させてもらいます。この記録の解説についてはペガーナロスト12号に書いたものでほぼ問題ありません。興味のある方は参照してみてください。

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ラヴクラフトのダンセイニ賛歌がついに本人に届いた件について。


ラヴクラフトが同人誌にダンセイニ賛歌の詩を書いたところ、ダンセイニからありがたいと手紙で返事がきました。その手紙が載ったのがこの『トライアウト』です。ラヴクラフトも、ウォード・フィリップス名義で詩を載せていますね。Bellsというタイトルですが、『定本ラヴクラフト全集7-II』に訳されている同一タイトルとは別もののようです。
ラヴクラフトが書いたダンセイニ賛歌の詩は、『定本ラヴクラフト全集7-II』で読めます。正式なタイトルは、「エドワード・ジョン・モアトン・ドラックス・プランケット・第18代ダンセイニ男爵に捧ぐ」です。「見よ!/今/輝けるプランケットが/大いなる陽のごとく昇るのを!」とか、ずっとテンション高いこの状態で7ページもダンセイニを褒め称え続けます。(「プランケット」はダンセイニの本名のファミリーネームです)ダンセイニが好きという人物の紹介文は嫌というほど読んできましたが、中でもこれがもっともダンセイニを持ち上げているレベルが高いです。
Bellsもダンセイニ賛歌もThe Ancient Track: The Complete Poetical Works of H.P. Lovecraftという本に収録されているようです。調べたところ、ものすごく価格が高騰していたので、リンクは張りません。ちなみに、価格は、低い方から、150ドル、約60000円、約1000ドルでした。150ドルはペーパーバックで、約1000ドルの方はハードカバーのようですね。

『ヤン川の舟唄、その他の物語』(洋書)がハズレだった。

日常的にダンセイニの洋書は買っているのだが、久しぶりにひどい目にあったので、報告しておきたい。ひどい目にあったというのは、洋書を買う上で普通によくあることで、洋書を購入し続けていれば、いずれは本を手に取った瞬間にこれはハズレだと判ってしまうようになるものである。タイトルと作者名で思いつきのように注文した私も悪いのではあるが。
さて、今回のハズレは、『ヤン川の舟唄、その他の物語』Idle Days On The Yann And Other Stories(Kessinger Publishing)である。私はこれをタイトルからしボルヘス編纂のバベルの図書館シリーズの英訳だと思って注文してみたのだが、収録内容からしてまったく別物だったのである。
収録内容は、『ヤン川の舟唄』と『見過ごし通りの店』の二作(英文)。テキストは、改行するたびに一行開けるというWEB仕様になっており、アメリカ国内で著作権切れになったダンセイニのテキストを公開しているサイトからコピペしてきたのがまるわかりになっている。(アメリカ国内では、ダンセイニの著作権は後期のものはまだ消失していないらしい)また、短編の途中で意味不明のテキストが書かれたブランクページが挿入されており、一通りのテキストチェックすらされていない低コスト体質の出版社なのがよくわかる。仕事があまりに粗雑すぎてあきれる気にもなれない。
アメリカのダンセイニ再販ものだと、WILDSIDE PRESSから出たものが日本のダンセイニマニアの間で購入されていることもあるが、紙の品質が低く、印刷も荒いのであまり評判はよくないが、さすがにブランクページ挿入までやることはないので、いま思えば、良心的な出版社なのかもしれない。
ともあれ、ここ数年で大量にデータベースに登録されたダンセイニのブックオンデマンド仕様がまったく信用ならないのは判りきったことだったのだが、身をもってそれを体験することとなった。まあ、ブックオンデマンドだろうがなんだろうが、将来的にはすべてのダンセイニ刊行物を集めるつもりなので、ブックオンデマンド部門の購入の先駆けとして意味はあったのかもしれない、と自分を慰めておく。

未谷おとによるダンセイニ的掌編

ラヴクラフトやヘンリー・カットナーがダンセイニを真似て短編を残したことはよく知られていることと思います。ダンセイニはすべての読者を詩人にする、と述べたのはラヴクラフトでした。カットナーの妻ムーアは、誰もダンセイニのように書くことはできないが、彼の作品を読んだ作家であれば誰しもが真似たはずだ、と述べました。
というわけで、ダンセイニ研究暦15年にもなろうかという私こと未谷おともいわゆるダンセイニ的掌編というのを書いたことがあります。もうずいぶん昔の話で、10年以上は遡ろうかという次第で、私自身も忘れていたのですが、先日の上京の折に、とある翻訳家から、ダンセイニ的掌編を君は書いていないのか、と聞かれたのです。私は、恥ずかしながら昔書いたことがあると述べてしまったのです。いまから考えるとうまくごまかしておくべきところだったのかもしれませんが、それはそれとして。バレてしまっては仕方ないので、未谷おと的ダンセイニ的掌編なるものを再公開したいと思います。昔ながらのペガーナロスト読者は知っているかもしれませんが、読まずにスルーしておいてください。
一連の文章の中には、ほんとに意味のないものもたくさんあるので、今読んでもまだギリギリ鑑賞に堪えうるかもしれないものを寄せ集めました。
最後の挿話「さらば地平線」は、ずいぶん昔に奈良のラジオ放送でラジオドラマ化されたことがあります。公共の電波に一度は載ったわけだし、私の創作物においては一応ながら代表作なのかもしれません。元ネタがある挿話もあります。「人間の季節」はニーチェをもとにしています。「進め!」は新井素子の短編からイメージを借りています。あと、読めば判りますが旧約聖書にもいろいろ助けられました。
では、お暇な方だけどうぞ。

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『こころナビ』原作とコミカライズの比較検討

こころナビ』というエロゲがある。Q-Xという二人でやっているメーカーの二作目であり、2003年に発売され、1万本を超えるセールスを記録した。悪評はあるが、それはプレイアビリティについてのものと、担当声優の演技についてのものであった。かわいいキャラクターと適度に物語性のあるシナリオは好評を博したといっていいだろう。
『凛 COCORO NAVI Another View』は、複数シナリオの1ルートである凛子ルートをコミカライズしたものである。2008年から2009年にかけて、「コミックエール」vol. 7からvol.12に連載され、単行本化する際に第七話及び第八話を書き下ろした。著者について私はこれがはじめて購入した本であり、何も知らないに等しい。
凛子は『こころナビ』のヒロインのひとりである。今関凛子といい、本作の語り手である今関勇太郎の実妹にあたる。凛子ルートは本作でもっとも印象的なシナリオであって、テキストによって描かれた以上の魅力あるシナリオである。メインヒロインであるルファナのルートがこころナビの根本に関わる問題を取り扱っているにもかかわらず、ルファナの陰影のないキャラクター造形のせいか、凡作となっているために、凛子はより脚光を浴びることになった。ウェブ上での評判も凛子ルートへの感情の吐露がもっとも多いのは気のせいではない。
以下、ネタバレがある。

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