『名声と詩人』訳者解説

ダンセイニ『名声と詩人』は、彼の都会趣味と皮肉、偉大な詩人への憧れをまぜこぜして出来上がっている。鴎外や松村みね子が訳した『失くしたシルクハット』の系列の作品である。実務家のプラトルと夢想家のハーリィによる対話劇で、これはダンセイニの軍人としての資質と詩人としての資質の内的対話といってもよいかと思う。二人の対話は最初から最後まで平行線を続けることになり、最後は名声を得ることに関しての強烈な皮肉で幕を閉じる。ダンセイニは名声について『五十一話集』でも言及しており、その度合いからダンセイニ自身が強烈に名声を求めながらも、その危険に自制心を働かせていたことがわかる。おそらくは書評に一喜一憂していたであろう大貴族の姿は、かえってかわいいぐらいだ。
この作品は、ダンセイニ執筆史上でけして重要な作品ではない。ただ、軽妙な対話と気の利いた皮肉、それに劇的なクライマックスをただ楽しんでいただければよいかと思う。
この訳文はペガーナロストvol.1に掲載後、ペガーナロストvol.11.11に改訳を掲載したものを、そのままWORDファイルから転載したもので、まったく同じものである。さわりを読んでみて、訳文の硬さに修正すべきか少し考えたが、そのために公開が二年ぐらいは遅れるのは最近の自由時間の少なさからして間違いないので、とりあえずコピペしておくことにした。改訳のとき、「名声」の口調に関して、デモンベインの某世界的魔術書キャラを参考にしたが、まったくそのままというわけではない。暇なひとは脳内声優に話させてみてはいかがだろうか。
書誌事項については、ペガーナロストvol.11.11に載せたものを転載する。以下、転載。

 訳出に当って、テキストはPlays of Near and Far, G. P. Putnam's Sons, NY and London, 1923を用いた、と思う。テキストの奥付部分が行方不明なのである。九年前は海外古書店のネット通販もあったのかなかったのか、とにかくテキストを入手するのも一苦労で、これは京都のある大学の文学部に失礼させてもらってコピーした。その際、本が少し傷んでしまったのをここでお詫び申し上げる次第である。紙質が悪く、ページを開くたびに紙が崩れていってしまったり、コピー機に乗せるときに背を開くために、そこが痛んでしまったのだ。関係者には大変に申し訳ないことをしたと反省している。
 テキストの初出はAtlantic Monthly, August 1919。ダンセイニによる執筆は一九一七年の春。初演は一九一九年、マサチューセッツ州ハーバード大学
 ネットで調べてみると、アデレード大学の「シアターギルド」という団体が一九三八年、一九四八年、一九五二年に、ニュージーランドカンタベリーキリスト教大学の「カンタベリー大学演劇協会」が一九三二年に、それぞれ公演を行っている。
 本邦では、「演劇新潮」[1.4](1924.4)」に吉田甲子太郎訳「名誉と詩人」として掲載されたが、発行直後に当局によって発禁にされてしまったようで、その次号にも載っている。
 本邦での上演記録は発見できなかった。無論、「名声と詩人」が訳された一九二四年を含む一九二〇年代はダンセイニ劇の上演が盛んに行われた時代なのだが、一九二一年に松村みね子訳『ダンセニイ戯曲全集』が出てからというもの、これを脚本として使ってばかりで、他の訳はほとんど考慮されなかったのが、上演記録のタイトルから読み取れる。