大阪で開かれている「世界制作の方法展」に行ってきた。

大阪は中之島にある科学館の隣に国立国際美術館がある。入口だけみると変な形のイチゴ温室のように見えるが、実は地下にかなり広く穿たれていて、ロビーに足を踏み入れてみると、ちょっとした異空間のような雰囲気が味わえる。そこで開かれているのが「世界制作の方法展」で、私が行ったのはその最終日の午前中である。
なかなかに魅力的なタイトルだが、一人で出かけるということにひどく腰が重い私にとっては理由がなければ行くことはなかっただろう。その理由とは、夏に奈良で行われた稲垣足穂展(来年に京都でもなにやら足穂展を企画するとか)で知遇を得ることができた現代美術作家ユニットであるパラモデルの中の人である中野さんに無料券をもらったのである。別にくれとねだったのではない。出展するというので、行きましょうといったら、くれたのである。中野さんも別に無作為に無料チケット(招待券というらしい)を配っているのではないはずなので、これはいかなければならないと決意し、ペガーナロストの編集が終わったので、やっと京阪電車に乗っていくことができたのである。
まあ、そんな経緯はどうでもよろしい。私は「世界制作の方法展」の最終日に行ってきた。そこで印象に残ったことでも思いつくまま書き連ねていきたい。
最初に入ったのは、「体積の裏側」と題された制作物。作家の名前は申し訳ないのだが思い出せない。天井から溶けたプラスティックを数千も垂らし、そのプラスティックの糸に半透明のビニールシートで山のような形が描かれている。遠景は水墨画のような雨の山脈。制作物の下側に入ることもできて、それは山を内側から見上げることになる。よくわからないが、強い印象を受ける作品である。だいたい、私は現代美術に素養がないのだから、よくわからないのも仕方ない、というか、よくわからないという印象そのものが、ひとつの現代美術的な解釈なのではないかと勝手に愚考させていただいておく。
パラモデルの作品は、部屋中にプラレールを敷き詰めて、一種異様な空間を作り出す。レールはその実存として運動の主体ではなく、運動を誘導するものとして作用する。そのとき、運動するのは鑑賞者の目線であり、目線が動き出してはじめて作品が成り立つ。レールの文様はときに直線で、ときに特定のカーブを描くパターンを描き、規格生産品であるプラレールの規格そのものが文様の秩序を作り出す。この文様について何かに似ていると思っていたのだが、自宅に帰りついてからわかった。ケルトの古代遺跡がもっている渦巻きの文様である。渦巻きは生命と永遠を象徴している。入り組んだ運動ははじまりと終わりとをなくす。運動とは生命であり、はじまりも終わりもないところは永遠である。この印象から、私はテクノケルティックという言葉を思い付いた。それに、パラモデルの作品は、作品展初日からずっと造り続けている。未完成を完成のひとつの形態としている。
パラモデルの作品は、最終日になって、美術館入口や、美術館ロビーにも進出していた。ロビー受付前の空間はプラレールが轢かれ、少しずつ美術館を侵食していくようであった。話をきけば、最終日ぐらいはいいだろうと美術館の中の人が許してくれたのだという。後日いただいたメールには、最終日の終了時間間際には、美術館を飛び出し、外に向かって広がっていったとあった。見てみたかったと思う。
作品名はよくわからないのだが、暗闇の中で模型の電車を走らせるという作品もよかった。模型の電車には灯りがつけられており、レールの周囲にあるオブジェクトを照らし、その影が壁に映るというものだ。電車が動いていくと影は次々と変化し、また観客もときには照らし出されることで、作品の一部と化してしまう。部屋全体がスクリーンとなっており、きわめて映像的で、空間的なものであるといえる。言葉では説明のつかない体験型。暗闇という異世界、そこで繰り広げられる影絵たちの共演。異世界の創出に成功していると思った。
実は「世界制作の方法展」はすべてを見ることができなかった。部屋をめぐっていくと、出口近くの作品に行列ができており、入ることができないのである。仕方ないので、入口まで戻って外に脱出することになった。
併設で、「アンリ・サラ」と「中の島コレクションズ」をしていた。「アンリ・サラ」は映像作品。時間がなかったので、一目みて素通りさせてもらった。「中之島コレクションズ」は設立が宙に浮いている大阪市立美術館の所蔵から名画を集めたもの。教科書に載るような有名絵画もあって、なかなかすごいのだが、あまりピンとくるものはなかった。
美術館を一通り見てから、パラモデルの中野さんを昼食に誘うと、いろいろあってメンバーが増え、ほかにカメラマンの方や、美術館の中の人と一緒に昼食会となって、すごく楽しかった。いろいろと面白い話題もあったのだが、現代美術の世界においての作法がよくわからないので、ここに書くのには躊躇がある。やめておくのが無難であろう。
パラモデルは、来年に、大阪の豊中というところで、なにやらイベントを企画していると聞いたので、なるべく時間を取っていってみたいと思う。

アスタルテ書房にてペガーナロスト13号の取扱いがはじまりました。

京都の伝説的古書店アスタルテ書房さんにペガーナロスト13号を納本してきました。現状でお買い求めになれるすべての本が在庫してあります。ただ、すこし目立たない場所に陳列してあるので、探して見つからなかった場合は、店主にお尋ねください。

本日、私がアスタルテ書房内を物色しているとき、若い男が扉を少しあけて店内を覗き込んで、「うっ」とつまらせたようなうめき声をあげると、すぐさま扉を閉めて出ていかれました。雰囲気にのまれてしまったのでしょう。しかしながら、けっして怖いお店ではないので、読者の皆様は逃げ出さずに店内をご覧になってください。店主もやさしい方です。

ペガーナロスト13号販売開始なのです。[ペガーナロスト]

西荻盛林堂書房さんにペガーナロスト13号が入荷しております。すでに一冊は売れているとのうわさを聞き及んでおります。みなさま、ご購入のご検討をお願いいたします。
盛林堂書房さんのブログはこちら。
http://d.hatena.ne.jp/seirindou_syobou/

通販では、古書肆マルドロールさんでの取扱いがはじまりました。遠方の方、よろしければご利用ください。
http://www.aisasystem.co.jp/~maldoror/

ダンセイニ研究誌「ペガーナロスト」13号発行のお知らせ

ダンセイニ研究誌「ペガーナロスト」の13号を入稿してきました。12号の発行が2008年ですので、ほぼ三年ぶりの新刊ということになります。以下、目次など詳細。

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恩田武史展を見に行ってきた

9月25日に行った足穂展で知り合ったのが恩田武史さんなのですが、彼が個展を開くということで行ってきました。大阪は心斎橋のArtist Space CEROというところで開かれています。一階にジーンズメイトが入っている雑居ビルの二階にあります。前回の個展は絵画だったという話なのですが、今回は造形芸術です。

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稲垣足穂のイベントに行ってきた(後期日程)

9月4日と9月25日に行ってきました。
9月4日は、ペガーナロスト編集助手のトミーくんとともに会場を訪ねました。紀伊半島に大きな被害をもたらした台風がやってきていて不安定な天気でしたが、平端駅からの歩いての道行きは小雨が降ったり止んだりで、大きく濡れることはなかったです。民家の軒先の花壇に蟷螂を見つけたり、水滴を落とそうとしてか身体を大きくつかって巣を揺らしているジョロウグモがいて、目を楽しませてくれました。平端駅周辺の喫茶店でお昼ご飯を食べようと思っていたのですが、そういった類のお店はすべて閉まっていて、途中で見つけたヤマザキショップでパンを買って済ませました。

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人形作家kaoさんの展示を見に行ってきた。

 9月3日、台風が来ている最中なのです。アスタルテ書房に立ち寄ってから、京都の"ギャラリー祇園小舎"で行われているアートイベント"MAZENDA I"に行ってきました。 江口あさ子、kao、菊間雅人、玉神輝美、寺田幸子(イベント案内より)の五人の作品を展示していました。このイベントをプロデュースした原田薫さんによれば、イベントタイトルはゲーテの色彩論から採ったとのこと。

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